「ごめんなさい」

「タクシーで帰って2時すぎに寝て4時半に起きて始発で出社する」という生活が、もう長いこと続いていた(職場に泊まるのはどうしても嫌だった)。

その日も始発(地元駅を5時2分に出発する)に間に合うように長い坂道を走っていた。

駅構内の踏切は、まだ鳴っていない。始発にはおそらく間に合うだろうと思い、足をゆるめた。

息を整えようと、冷たく乾いた冬の空気を大きく吸い込んだとき、頭の後ろに電気が走るような感覚があった。それから、貧血のような、目がくらむような感じ。

突然、何の前触れもなく、でも生々しくリアルに、「死ぬかもしれない」という感覚があった。すぐ後ろ、首筋に息がかかるくらいの距離に、何かの気配をはっきりと感じた。

無意識に目を閉じて「ごめんなさい」と口にしていた。きっと他人には聞こえないくらい小さな声で、でもはっきりと声に出して、何度も何度も。

誰に向かって謝っているのかはわからなかった。

いや、本当はわかっていた。

気がつくと、首筋に感じていた生々しい気配は消えていた。踏切が鳴っていた。始発電車がホームに入ってきたようだった。

(もう10年近く前、前職での話)