倉下忠憲さんの新刊『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』を読んだ(ちなみにタイトルが長いので、Twitter等で触れるときにはハッシュタグ「#やるおわ」 で)。
本書の目次は以下の通り。
第1章 タスク管理について
第2章 タスク管理とは何か
第3章 タスク管理の道具箱 基礎編
第4章 タスク管理の道具箱 さまざまなリスト
第5章 タスク管理の道具箱 周辺用語
第6章 タスク管理の道具箱 実行のためのメソッドとワークフロー
第7章 デルタ状の実践
第8章 よくある失敗とそこからのリカバー
第9章 人生の舵を取るタスク管理(あるいはタスク管理の限界)
個別のツールや手法ではなく「ジャンルとしての」タスク管理全般を扱った本というのはありそうでなかった(しかも新書!)。
■
第1章では倉下さんのコンビニ店長時代のタスクとの付き合い方の経験が書かれている。
こういう話に章を割くのはめずらしい気もするけど、タスク管理というのは非常に「個人的」なことであり、「個人的」なこと(に関するノウハウ)について書くときに、個人的なバックボーンの有無は大切だと思う。
第2章はなぜタスク管理が(私たちにとって)必要なのかという話。ここで本書全体に関わる重要なメッセージが出てくる。それは「そもそも人間は不完全である」ということだ。
第3章から第6章では、タスク管理に関わる用語が網羅的に(これでもかというくらい)解説されている。その意味では読み物の中間に辞典/レファレンスが挟み込まれたような構造になっている*1。狭い意味でのタスク管理にとどまらず、たとえばワークフローのひとつとして「山根式袋ファイル」にまで触れられている。
タスク管理についての記事や書籍では得てして説明なく出てきて、初心者にとっての戸惑いや誤解の元になっているかもしれない用語たち。そもそも本書の主題である「タスク」自体がそうなのだ。タスク管理と言っている人のどれだけが「タスク」という言葉の正確な定義を意識しているだろう。本書ではそのあたりが非常にクリアに説明されている。
おそらくいくつかは「お、これは(自分に)いいかも」と思うものが見つかるだろう。そこからより深く知りたいと思えば巻末に載せられた参考文献からその本に関するものをピックアップして読んでみればいい。
■
と、ここまででも充分役に立つのだが、本書のキモは(と個人的に思うのは)この後の章だ。
第7章以降に書かれるのは、タスク管理との付き合い方だ。
タスク管理は意義のあることだけれど魔法の杖ではない。導入すれば成功するというものではない。なぜなら第2章で語られた通り「そもそも人間は不完全」だからだ。それでも次々とやることが降りかかってくる現代の環境にタスク管理は不可欠だ。ならばどのようにタスク管理と付き合っていけばいいのか。
本書の回答が、タスク管理を味方につけるための具体的ノウハウ(第7章、第8章)と、考え方あるいは心構え(第9章)だ。その具体的な内容は本書を読んでほしいけれど、あらかじめ断っておくと目から鱗が落ちるような鮮烈で画期的なものすごいノウハウは書かれていない。どちらかというと地味で実質的で大きくないことばかりだ。
でもがっかりしてはいけない。地味で実質的で大きくないことだけれど、これが書いてあるタスク管理のノウハウ書はほとんどないのだ。
そう、「タスク管理に成功する本」ではなく「タスク管理を実際に味方につけるのを助けてくれる本」というのが本書の印象だ。
そしてタスク管理を実際に味方につけた人生とそうでない人生とでは、長い間にけっこうな違いが生まれるはずだ。
■
おまけ。
なんだか抽象的なことばかり書いてしまったので、具体的なノウハウでひとつすごく共感したやつ。
「進捗を内容ではなく、時間で捉え直す」
これなしで「本を書く」ような仕事はとてもできないよ。
*1:ちなみにこの部分は倉下さん自身が以前セルフパブリッシングで出版した『タスク管理の用語集』がベースになっている。