想定を超えた(?)アウトライナーの使い方

倉下忠憲さんの以下の記事で言及していただいたTak.の「細かすぎるほど文を分割する」書き方について。

以下、ちょっと長いけど引用する。

その姿を実際に見たことはないが、Tak.氏はアウトライナーで細かすぎるほど文を分割することがあるらしい。単語や助詞単位で文を分けていくのだ。

 

その姿を

実際に

見たことはないが、

Tak.氏は

アウトライナーで

細かすぎるほど

文を分割するらしい。

 

こんな感じだろうか(もっと細かいかもしれない)。この分割スタイルは、すでに「行単位」という構造を逸脱している。プログラミングで言えば、

 

print

(“Hello

World!”)

 

みたいに書いていることになる。

もちろん、こんな使い方は最初のアウトライナーを作ったデイブ・ワイナーのイメージにはなかったと思う。

この方法は、某企業の社内報の編集の仕事をしているときに、苦し紛れにやっていたことが元になっている。

自分の言葉ではない言葉から構成された文章を、迅速かつ大量に書かなければならない。それはあるときにはトップから社員に向けた言葉、あるときにはベストプラクティスを表彰された社員の喜びの言葉だったりする。

その種の言葉は普通に書こうとしても自分の中から出てこなかった。だから大音量で音楽を流しながらリズムに乗せて無理やり書く、みたいなことをしていた。

「リズム先」みたいなものだ。あるいは一種のトランス状態を作り出していたと言ってもいい。これによって、文章の細部に引っかかって手が止まってしまうことを、かなりの程度避けることができた。そして一度「実体化」させてしまえば、後はいかようにもできる。

気がつくと、ごく自然にリズムの区切りで改行していくクセがついていた。

アウトライナーでこれを行なうことによって、リズムに乗って書くことだけでなく、書いた後のリズム調整も楽にできるということに気づいたのはだいぶ後になってからのことだ。

たとえば倉下さんの記事にあった以下の例。

その姿を

実際に

見たことはないが、

Tak.氏は

アウトライナーで

細かすぎるほど

文を分割するらしい。

これを、たとえば以下のように変えてみるだけでリズムは変わる。

Tak.氏は

アウトライナーで

細かすぎるほど

文を分割するらしい。

実際に

その姿を

見たことはないが。

間に別のピースを挿入して、さらに変えてみることもできる。

実際に

その姿を

見たことはないので

真偽は

定かではないが

Tak.氏は

アウトライナーで

細かすぎるほど

文を分割するらしい。

アウトライナーを使うと、通常のセンテンスの形の中でエディタを使うよりも、はるかに楽にこの種の調整ができる。感覚としては、指先で断片をくるくる入れ替えるだけだ(必要に応じて繋ぎの部分をちょこっと調整する)。

強いて言えば、これは(倉下さんの言葉を借りれば)"日本的なエッセイ(軽い読み物の意)"における"文章のリズムと息継ぎ"をコントロールするための方法なのだと思う。

アウトライナーはパラグラフライティングを実践する際にとても役に立つけれど、「パラグラフライティングのためのもの」ではない。構造的なドキュメント(たとえば法律文書)を作る際にもとても役に立つけれど、「構造的な文書を作成するためのもの」でもない。

「思考のための乗り物」に例えるとすれば、思考が乗り物に乗ることによってブーストされるのであって、乗り物の目的に思考を当てはめるのではない。

だからこそ、使い方は開発者の想定を超えていくし、汎用ツールとしてのアウトライナーは想定を超えた使い方を包み込む広さと深さと自由さを持っている。

ちなみに、この記事を書いている途中のアウトライナーの画面はこんな感じでした。文を細かく分割しているところとそうでもないところが混ざってますね。