私的アウトライナーガイド

『アウトライン・プロセッシングLIFE』の巻末「自由なアウトライン・プロセッシングのためのアウトライナー」をベースに改訂したものです。

「自由なアウトライン・プロセッシングのためのアウトライナー」というのは、基本的にプロセス型アウトライナーのことです(プロセス型アウトライナーの概念については「アウトライン・プロセッシングミニ入門」を参照)。

WorkFlowy

workflowy.com

WEBブラウザ上で動作するクラウドアウトライナー。iOS版とAndroid版のアプリも提供されているので、モバイルも含めてどこからでもアウトラインの編集ができます。

アウトライナーとしての機能はシンプルですが考え抜かれており、検索やタグ機能、秀逸なUIとも合わせて驚くほど柔軟な使い方ができます(裏技が山ほどあります)。

スペックには現れにくい「性能」も優れています。たとえば複数のデバイスから編集したときにも結果がすぐに反映され、競合がほとんど発生しないところは、実用性を大幅に高めています。

ひとつのアウトラインですべてを管理するという仕様は、まさにプロセス型アウトライナーのもっとも純粋な形と言えるでしょう。インターフェイスは英語ですが、ヘルプ動画が非常に良くできているので、順番に見ていくだけで基本的な使い方は理解できると思います。

アウトラインをトピック単位で共有して複数のユーザーで編集できる機能など、今日的なアウトライナーのあるべき姿をリードする存在でもあります。反面、普通のデスクトップアプリの発想で使うと、最初は戸惑うかもしれません。

機能限定版の無料アカウントとフル機能のProアカウントからなる、フリーミアムモデルを採用しています。無料アカウントでは作成できる項目数が制限されますが、ブログなどに招待リンクを貼ることで上限を引き上げることもできます。

iOS版、Android版はお世辞にも使い勝手が良いとは言えませんが(最近のバージョンではかなり改善されていますが)、これを補うHandyFlowyMemoFlowyというアプリが、Michinari YAMAMOTOさんにより公開されています。

日本語の情報としては、彩郎さんによる電子書籍『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』があります。

また、WorkFlowyの本ではありませんが、哲学者の千葉雅也さんに文章の書き方についてインタビューした拙著『書くための名前の技術 case 3 千葉雅也さん』の中で、千葉さんのディープなWorkFlowyの使い方が語られています。

Dynalist

dynalist.io

WEBブラウザ上で動作するクラウドアウトライナー。iOS版とAndroid版のアプリも提供されています。WorkFlowyから乗り換えている人も多くいるようです。

私自身が現時点でメインで使っているアウトライナーでもあります。

Dynalistの特徴は、WorkFlowyとよく似た操作性を持ちつつ、WorkFlowyが敢えてそぎ落とした機能を付け加えていることです。そのため、WorkFlowyよりも圧倒的に多機能です。

WorkFlowyはプロセス型アウトライナーの特徴を活かし、敢えて「ファイル」という概念を捨て、すべてをひとつのアウトラインの中に入れてしまうという仕様になっています。

これに対して、Dynalistには「ドキュメント」と「フォルダ」という概念があります。目的別に複数のドキュメント(書類)を作り、それを整理することができるので、特にはじめて使う人にはWorkFlowyよりも取っつきやすいかもしれません。「ドキュメント」のひとつひとつが、WorkFlowyによく似たアウトライナーになっています。

他にもチェックリスト機能、ナンバリング機能、マークダウン記法の使用、TeX風の数式記述、トピックに日付を設定する機能、画像の埋め込み(有料アカウントのみ)、ショートカットキーのカスタマイズ(有料)、Google Calendar連携(有料)、バージョン履歴(有料)など機能が豊富です。

料金体系はWorkFlowyと同じくフリーミアムモデルを採用していますが、特筆すべきは無料アカウントの作成トピック数に上限がないことです。これは、はじめてアウトライナーに触れる方にとっては大きなメリットでしょう。

OmniOutliner

www.omnigroup.com

Macのアウトライナーの老舗であり、デスクトップアウトライナーとしては今でも決定版と言えるでしょう。私は長いことOmniOutlinerをメインで使用していました(本当は今でもそうしたい気持ちがあります)。

非常に機能が豊富ですが、柔軟なカスタマイズが可能で、シンプルに使うこともできます。
デザインも洗練されていて、若干のクセはあるものの使い勝手は良好です。iOS版もあるので、iPad/iPhoneユーザーであればモバイル環境からも利用できます。開発元が提供するOmniPresenceというサービスを使うことで、MacとiOSの間でファイルを同期できます。

複数のトピックを選択してコマンドひとつでグループ化できるなど、アウトラインを効率的に操作するための気の利いた機能を備えています(この機能は一度使うと病みつきになります)。

カーソルの移動がエディタとして自然なことも、特に文章を書くときには見逃せないポイントです。項目にカラム(スプレッドシートでいう「列」)を作る機能、その中で簡単な計算を行う機能などもあります。

一方、ver.3くらいまでは非常に軽快なアプリだったのですが、現在のバージョン(OmniOutliner 5)は動作が軽いとは言えなくなっています。私がメインのアウトライナーを乗り換えた理由のひとつです。

モバイル版はiOS版のみ提供されています。タッチスクリーン上でのアウトライン操作はよく考えられていると思いますが、同期の確実性はWorkFlowyに軍配が上がります。また、Mac版では使えるフォーカス機能(WorkFlowyでいうZoom機能)がiOS版では使えないのがネックです。

昨今のアプリとしてはかなり価格が高いことも、欠点とは言えないまでもハードルを上げているポイントでしょう。

Microsoft Word

www.microsoft.com

いわずと知れたMicrosoft Wordです。

Wordのアウトライン機能は「見出し」と連動するため、私は「プロセス型」ではなく「プロダクト型」として分類しています。しかしWordは非常に細かくカスタマイズが可能なので、特性を理解して使えばプロセス型的な使い方をすることもできます。

Wordのアウトライン機能を擬似的にプロセス型アウトライナーとして使ういちばん簡単な方法は、アウトライン表示モードで「文字列の書式の表示」をオフにすることです。

階層が深くなったときに行の横幅が狭くなりすぎてしまう場合は、表示設定で「ウィンドウ幅に合わせる」を選択すると、文字列がウィンドウ一杯に表示されるようになります。

これで9階層に限定されますが、Wordをプレーンなアウトライナーとして使うことができます。もちろんプロダクト型アウトライナーとして、そしてワードプロセッサーとしては通常通り使えます。

「るうマニアSide-B」のるうさんが「MSWordをプロセス型アウトライナーとして使う」という記事で、Wordをより本格的なプロセス型アウトライナーとしてカスタマイズするための方法が紹介されています。手元にWordがある方は、ぜひ試してみてください。WorkFlowyやDynalistのようなクラウドサービスが使えない環境の方にとっても有用なノウハウだと思います。

欠点はWorkFlowyでいうZoom機能が使えないことですが、これは致し方ないでしょう。

NeO

d-lit.com

Mac用のデスクトップアウトライナー。おそらく史上もっとも多機能なアウトライナーではないでしょうか。使いこなすのはかなり大変です。

超多機能の名に恥じず、「クローン」や「集合」といった幻の機能(80年代の名作アウトライナーMOREが備えていた機能です)を継承しています。

ユーザーによる情報はあまり多くありませんが、志村俊朗さんによる一連の記事が参考になります。

モバイル版は提供されていません。

Roam Research

roamresearch.com

純粋なアウトライナーではなく、プロセス型アウトライナーとハイパーテキスト的な(Wiki的な)リンクによるテキストのネットワークを統合したようなツールです。

階層構造と編目(ネットワーク)構造はどちらが有効かといった議論がしばしば行われるのですが、その両者を統合した、ある意味では夢のようなツールと言っても過言ではありません。

単なるリンクではなく、同じキーワードを持つ過去のアウトラインを自動的に引き出してくれるような機能を持っています(上記リンク先の画像を見るとイメージがつかめると思います)。

「リサーチ」という名前からもわかるように、どちらかという研究者のためのツールが意図されているようにも思えます。

費用設定が高めであること、データが多くなると動作が重くなりがちであることなども報告されているようですが、私自身はじっくり使い込んでいないので評価は避けます。

いずれにしても、試してみるに値するツールであることは間違いありません(無料お試し期間があります)。

その他の選択肢

BEITEL Windows版のデスクトップアウトライナー

Outlinely Mac/iOS用のデスクトップアウトライナー


ここに紹介したものはWEBサービスとMac版アプリに偏っていますが、もともとWindowsアプリにはプロセス型アウトライナーが少ないという事情があります。

Windowsには以前はSolという素晴らしいプロセス型アウトライナーがあったのですが、残念ながら開発は終了し、入手できなくなっているようです。

もちろん私自身がMacユーザーであるという点も割り引いて考えてください。ここに紹介した以外にも優れたアウトライナーがあるはずです。