ホテル街

ある日の午後、某駅近くのラブホテル街を歩いていた(ときどき仕事をするカフェから駅へと向かう近道なのだ)。

前方のホテルから、20代前半くらいと思われる、特に派手でもなく地味でもない服装の女の人が出てきた。

慣れた感じでひとり、でもちょっと気配を薄くした感じ。

おそらく派遣型風俗の人で、仕事を終えて帰るところだったのではないかと思う。

彼女は、ちょうどぼくの前を歩いていた、若いスーツを着た男3人組の目の前に出てくる形になった。

あんまり、よくない予感がした。

案の定、3人組は彼女に向かってひゅーひゅーという感じではやし立てはじめた。彼女は無視して歩き続けたが、3人組は調子に乗った感じで何度も汚い言葉を浴びせては、お互いの言葉に大笑いする。

とても嫌な感じだ。

集団で内向きに受けを狙って、外部の個人を侮辱したり攻撃したりする。いちばん嫌いなタイプの振る舞いだ。

彼女は少しだけ足を速めたかもしれない。それでも振り向くことなく歩き続けた。

3人組は、なおもしつこく彼女の後をついていき、ついにひとりが彼女の正面に回って立ちふさがるようなポーズを取った(そのときの下品な顔を世界中にさらしてやりたい)。

ぼくは決してまったくケンカの強い人間ではないけれど、これはちょっとがまんができない気がする。そう思ったとき、「おい、いいかげんにしとけ」という声が響いた。

怒鳴り声というほどでもない、少し大きめの声というぐらい。でも、低く通るその声は、その場の全員にはっきりと聞こえた。

声の主は、道路脇でトラックから荷下ろしをしていたお兄さんだった。

真冬なのに上半身はTシャツ一枚。それほど背は高くないけれど、その腕の太さと胸の厚さは、ちんけな3人組など相手ではないことが誰の目にも明らかだった。

3人組はスイッチを切ったように沈黙した。そして下品な笑いを半分くらい顔に残したまま、「今回は許してやる」とも「覚えとけよ」とも言わず、次の角を曲がって消えた。

彼女はしばらく早足のまま歩き続けてから立ち止まり、振り返った。Tシャツのお兄さんは、何ごともなかったように仕事を続けていた。

ぼくはそのまま彼女の前を通りすぎた。一瞬、彼女と目があった気がした。

表通りに出るところで振り返ってみたが、もう彼女の姿は見えなかった。