Time

社長が消えた朝

ちょっと理由があって25年くらい前に勤めていた会社(社員としては前々職)の周辺をストリートビューで眺めていたら強烈な懐かしさに襲われた。会社が入っていたビルの周囲だけが取り残されたように昔のまま残っていた。空を遮る見慣れない壁があると思った…

(男の約束)

子供と大人の中間くらいの年の頃、ある件について父から「男の約束だぞ」と言われたその響きがどうにも居心地悪くて返事をしなかったことがあった。 それは家族の事情に関連したかなり重要な件について父と率直に話し合った後のことで、その結論自体に異論は…

Fくんに目を開かれた話と褒められた話(暗に階層を上がる話)

修士課程にいた頃、週1回の研究会の後によく二人で飲んでいたFくんという人がいた。 年は少し下。研究会に来ていた他の研究室の後輩、みたいな関係だったと思う。ちなみによく二人で飲んでいたとさらっと書いたけど、ぼくが人と積極的に飲みに行くというのは…

古き良き時代の話の良きこと

小学生のころ、「オトナになったらなりたい職業アンケート」みたいなものがあって、ぼくはそこに「サラリーマン」と書いた。 特になりたい職業も思いつかなかったので父の職業を書いただけ(いや、サラリーマンは職業じゃないのだが)。 当時のクラスメート…

たぬきと存在

幼稚園に通っていた頃、「家でたぬきを飼っている」と主張して先生に怒られたことがある。みんなの前で「嘘はよくないわね」というようなことを言われた。 ぼくは嘘などついていなかった。ぼくの家では「たぬき」という名前の猫を飼っていたのだ。 ■ 家に帰…

道具と方法論を持たなかった父の断片への敬意

父の遺品を整理していて、父が膨大な量の文章を書き残していたことを知る。 正確にいうと、文章というよりも文章の断片。書こうとした論文の原稿、書こうとした本の原稿、やろうとした翻訳の原稿、まとめようとした考察の原稿、その下書き、メモや覚え書き、…

「必要に応じて人を押しのけ、優位なポジションを確保できる自分」

人に道を譲るクセがある。 狭い歩道で前から人が来ればたいてい道をあけるし、ドアは後ろの人のために開けて待っているし、エレベーターではほとんど必ず最後に人が降りるまでドアの脇で「開」ボタンを押している。 とりわけ良い人だったり、洗練されたマナ…

ノスタルジック

横浜駅のJRの切符売り場で30代くらいのカップル(夫婦なのかどうかはわからない)が、路線図をふたりで指さしながらああでもない、こうでもないと議論していた。 都内のどこかへ行くルートを検討しているようだった。 しばらくして結論が出たらしく、ふたり…

「ごめんなさい」

「タクシーで帰って2時すぎに寝て4時半に起きて始発で出社する」という生活が、もう長いこと続いていた(職場に泊まるのはどうしても嫌だった)。 ■ その日も始発(地元駅を5時2分に出発する)に間に合うように長い坂道を走っていた。 駅構内の踏切は、まだ…

私的通学鞄のイノセンスとセンス

1980年、米国から日本の小学5年生に転入するひとり息子は、「ランドセル」というものを持っていなかった。 両親は、JALの大きな鶴丸マークのついた青い肩かけカバンを、通学鞄として彼に与えた。 70年代以前の生まれの人はきっと知ってる。http://www.hatago…