クラシックアウトライナーの時代(James LaRue/Tak.訳)

Tak.コメント:

この文章は、アメリカ・コロラド州キャッスルロックで公共図書館関連の仕事をされているJames LaRue氏が2001年に公開した「A Blast from the Past : Classic Outliners」の日本語訳です。失われてしまった「クラシック」アウトライナーの素晴らしさを伝え、当時無償で入手できるようになっていたいくつかの過去の名作アウトライナーとその体験を紹介しています。現在(2020年)から見れば古い文章なので実用的な価値はありませんが、アウトライナーに中毒してしまう感覚がよく出ていて個人的には共感してしまいます。同氏による続編「帰ってきたアウトライナー」もあります。

(James LaRue氏から翻訳許可をいただいています)

序文

アウトライン・プロセッシングの古典時代はWindows以前にさかのぼる。アウトライナーは最初MS-DOSの世界で、次いでMacintoshの世界で反映した。こうしたプログラムのほとんどは、今では開発元が手を引き、見捨てられてはいるものの、シェアウェアの配布サイトなどで現在でも見つけることができる。

この革新的なプログラムについて語るべきことは数多くある。たとえば小さなメモリで動作すること、高速で動作することなどだ。しかし、最も重要なことは、これらのソフトが単なる文章(words)だけでなく、発想の流れとその相互関係——今日あまりにも簡単に忘れ去られていること——に的確に焦点を当てていたということだ。

アウトライナーとは何か?

アウトライナーはワードプロセッサ以上のものであり、同時にそれ以下のものでもある。アウトライナーは単に文章だけでなく、その背後の構造を扱うことに焦点を当てている。

その秘訣は階層構造の持つ威力を2つの方法で生かすことにある。(1)インデント(字下げ)によって文章の構造を示すこと、そして(2)階層レベルに応じたテキストの隠蔽(非表示)、再表示、移動を選択的に行なうことだ。

まず、インデントによって文章の構造を示すこと。例えばアウトライナーの中で文章を何行かタイプする。このテキストは場合によってトピックとか見出し(ヘディング)などと呼ばれる。テキストは同じレベルに追加することも、字下げされた下位レベルに追加することもできる。後からレベルを上げることも下げることも可能だ。

ここまではなんということもない。ほとんどのワープロで同じことができる。しかしアウトライナーにはほとんどのワープロにできないことができる。ある特定レベルのテキストだけを目に見えるようにしてくれるのだ。ある見出し項目より下のレベルのアウトラインを「折り畳む」ことによって、下位レベルのテキストは画面上から見えなくなる。アウトラインを「展開」すれば、下位レベルは再び見えるようになる。

ここで、どんなワープロにもついているありふれた編集コマンドが、より大きな力を持つことになる。ある見出し項目に付属するテキストを折り畳む。その見出し項目をアウトライン上の好みの場所までマウスで移動する。すると、見出しに付属する全てのテキストが一緒に移動するのだ。

これも、どんなワープロを使ってもできないことはない。しかしそのためには膨大なスクロール作業が必要だ。アウトライナーは、今自分がいる場所を把握することも、テキストの構造を常に意識することも容易にしてくれる。

高機能のアウトライナーなら、他にも多くの専門的かつ強力を機能を持っている。例えば自動番号付け機能(様々な番号付け規則に基づいて、アウトラインを編集するそばから番号を振り直してくれる)、マーク機能・集合機能(恐ろしく複雑なリストであっても、素早く再構成することを可能にしてくれる)、ソート機能、クローン機能(アウトラインのある箇所に加えた変更が、その項目のクローンにも自動的に反映される)、そしてホイスト(巻き上げ)機能(アウトラインのある一部分だけを切り出して表示する)などだ*1

アウトライナーは様々な用途に応用できる。ToDoリスト、カレンダー、コンタクト&プロジェクト管理、プレゼンテーション、プログラミング、複雑なドキュメントの構成作業、それから……単に考えること。手軽なテキストデータベースとして使うこともできる。私は自分の新聞コラムを1つのアウトラインの中に蓄積している。娘は、将来物語の登場人物に使えそうな5,000種類の名前を管理するのにアウトライナーを使っている。

MS-DOSのアウトライナー

MS-DOS上のアウトライナーとして私が推薦するソフトは3つだ。

KAMAS

小気味よくパワフルなアウトライナーで、いまだに私のお気に入りのひとつだ。KAMASには2つのモードがある。アウトライン編集(見出し項目は最長88文字までという制限がある)とテキストリーフ編集(ひとつひとつの見出し項目に付属するノートは32KBに制限されている)だ。とはいえ、KAMASは8MBまでのファイルを扱うことができ、ファイルの操作は驚くほど速い。アウトライン編集のコマンドは素晴らしくエレガントだ——ほとんど場合、1つか2つのキーストロークしか必要としない。テキストリーフ編集ではタッチタイプをマスターした人にとってはいまだに最も強力といわれるWordStar形式のコマンドが使える。KAMASはこのサイトから入手することができる。現在KAMASを管理している人を見つけることができていないので、誰に対してお金を払うことになるのか正確にはわからない。

PC-Outline:

Brown Bag Softwareより提供されていたPC-Outlineは知名度も高く、多くの人に使われていた。モードの概念がなく、本文編集とアウトライン編集がより緊密に統合されている。動作は高速かつパワフルで、一般的なプルダウン形式のメニューを備えていた

ThinkTank:

ThinkTankはかつてのLotus1-2-3と同じスラッシュ(/)コマンド体系を採用している。多くの人からMS-DOS上のアウトライナーとしては最も強力なものと見なされている。ThinkTankはMacintoshにおけるMORE(次項を参照)と同じように、現在ではwww.outliners.comより無料で入手可能である。Symantec社はThinkTankとMOREの権利を買い取った後、これらの名作プログラムを無料かつサポートなしで公開するという素晴らしい決断を下した。Symantec社に栄光あれ。アウトライナーは現代のマーケットで再びチャンスを得るに値するものだ。

Macintoshのアウトライナー

クラシック・アウトライナーは2種しか存在してないようにみえる(今日のマーケットではIdeaKeeper、Inspiration、Z-Writeといった安価でよくできた製品が存在する。

Acta:

この初期のMacintoshのアウトライナーも今では(最後の、そして最もよくできたバージョンが)無料で提供されており、www.a-sharp.com/actaLinkIconから入手できる。サポートはない。今のところMacの世界での私のお気に入りだ。きわめて分かりやすく、コマンド体系は非常によくできていて、あまりにロジカルであるために存在をほとんど意識しなくなってしまうほどだ。

MORE:

前述の通り www.outliners.comで無料で提供されている。このソフトはMacの世界のグランドチャンピオンといってもいいもので、アウトライン・プロセッシングに関して真に「それ以上(MORE)」のものを提供してくれる。思いつくかぎりのアウトライン操作コマンドが実によく練られた形で装備されているのに加えて、ツリーチャートの作成や計算といった機能も持っている。あるユーザーによれば、MOREは実際彼に代わって車を売ることまでしてくれたという——広告を出し、応募者を面接し、価格の交渉まで! まあ、それは冗談だが、それでもこの実に印象深いプログラムには多数の信奉者がいる。特に法律家と医者が多い。

Windowsのアウトライナー

本来この記事の範疇ではないのだが、Windows用のアウトライナーも無料のものから廉価なものまで、当初思っていた以上にたくさんあるようだ。幅広く適切な要約として「An Overview of Windows Outliners(Windowsのアウトライナー概観)」という記事をjohn.redmood.com/o rganizers.htmlで読むことができる。ここには多数のよく整理された分析とリンク集がある。

結論

さて、あなたにはアウトライナーが必要だろうか。

私の経験では、人々はアウトライナーを試しに使ってみるなり「これを長い間探してたんだ!」と賛嘆の声をあげる……あるいは、そうでもないかもしれない。もしアウトライナーに興味をひかれたのなら、最低限の価格で最高のプログラムを見つけるこれ以上簡単な機会はないだろう。

 

*1:「ホイスト」機能は現在ではWorkFlowyの同様の機能に習って「Zoom」と呼ばれることが多い。OmniOutlinerでは「Focus」と呼ばれる。