アウトライナー体験(Dave Winer他/Tak.訳)

原文の「Meet an Outliner」は、Dave Winerが当時運営していたUserland Software社の掲示板への投稿を元にしたもので、Winer自身の文章というよりも、投稿者のDavil Drumheller氏の投稿をそのまま引用している部分がほとんど。でも、とても面白いです。

書かれたのは1998年の2月。固有の製品名や環境は別として、アウトライナーについて書かれていることは、ほとんどそのまま今日でも通用すると思います。

文中に登場するThinkTank、GrandView、MOREはいずれもWinerが80年代に興したLiving Videotext社の製品で、古典的名作アウトライナーです。

※Dave Winer氏から翻訳許可をいただいています。

はじめに

ここ数週間の間、アウトライナーを使う人々について書いてきた(より詳しく背景を知りたい人は「Scripters & Outliners, 2/2/98」の記事を参照してほしい)。そのうちのひとりがDavid Drumhellerだ。これはアウトライナーが彼の心を捉えて放さなくなったときの話だ。

 David Drumhellerの投稿より

多くの人は、アウトライナーがどれほど役立つものか理解していない。ワードプロセッサが役に立つというという事実と比べて、それははるかに理解しにくいことなのだ。

あるとき同僚がThinkTankについて教えてくれた。ぜひ使ってみるべきだと彼は言った。彼は私のことをよく知っているので、私がThinkTankを重宝するだろうことを確信していたのだ。

私自身は、アウトラインに関してこれ以上の助けは必要ないと思っていた。どちらかといえば、私はアウトライン作りが得意な方のだ(もちろん「手動の」アウトラインだ)。だから、機会があったにも関わらずThinkTankを試してみることはなかった。デモを見てみることさえしなかったのだ。

それから1、2年たったある日、私はある会議に出席していた。会議場では、プロジェクターを使ってブリーフケースほどのサイズのポータブルコンピューターの画面がスクリーンに映し出されていた。動いていたのはGrandViewというアウトライナーだった。

冒頭、スクリーンに会議のアジェンダが映し出された。私たちはそれに若干の修正を加えた。参加者のリストも追加された。一人一人の名前がアウトラインに追加されていき、私たちはそれぞれの名前のスペルを入力担当者に伝えた。

会議が進行するにつれて、アウトラインに議事録が追加されていった。参加者はこの道具の有用性をすぐに理解した。アウトラインの修正についてたびたび意見が出され、そのたびにセクションを移動し、トピックを組み替えた。アウトラインのうち現在進行中の議題の部分だけが展開され、他の部分は折りたたまれていたので、私たちは常にアウトライン全体の構成と流れを把握することができた。

主催者はホテルからレーザープリンタをレンタルしていた。休憩に入るたびにアウトラインはプリントアウトされ、ホテルのコピーサービスに持ち込まれた。休憩時間中に目を通すことができるように、アウトライン全体を展開した状態のコピーが全員に配布された。これで議事進行中には折りたたまれていた部分も確認できる。休憩時間が終わるたびに、私たちは数分かけてアウトラインを修正した。

自動的に更新されるアウトラインラベル(見出し番号)は印象的だった。会議が終わるとプリントアウトしたアウトラインを全員が持ち帰った。私たちの全員が参加し、貢献したひとときの成果は、既に形になっていた。

これだ、と私は思った。自分のオフィスに戻ると、私はMacの台数分だけMOREを購入するよう手配した(プロジェクターも)。そのとき以来、MOREは公私を問わず私にとって最も重要なアプリケーションになっている。

つまり、こういうことだ——私がアウトライナーの有益性を理解するためには、実際に体験してみる必要があったということだ。

体験してみる機会さえあれば、より多くの人がアウトライナーを使うようになると私は思う。もちろん、ある種の人々がよりユーザーになりやすい傾向はあるかもしれない。とはいえ、アウトライナーから最大の恩恵を受けるはずの人々が、アウトライナーがどれほど役に立つか理解していない可能性は高い。

もしアウトライナーに市場があるのなら、ターゲットとなるユーザーはアウトライナーの使い方を目にする機会を与えられるべきだ。彼らは多分デモを見には来ないのだから。