アウトライン・プロセッシングLIFE

概要

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アウトライナーでのタスク管理から始まって、ライフ(生活と人生)そのものをアウトライナーの中で編集するまでのプロセスを豊富な実例で紹介。「書きながら考える」アウトライン・プロセッシングの事例集であり、タスク管理の方法論でもあり、ある種の自己啓発書でもあり、それらに対するアンチテーゼでもあります。

著者:Tak.
出版:セルフパブリッシング(KDP) 2018年

本書の目次

  • はじめに
  • 本編の前に……アウトライン・プロセッシングミニ入門
    • アウトライン、アウトライナー、アウトライン・プロセッシング
    • アウトライン・プロセッシングの技法
  • Part 1 アウトライナーフリーク的タスク管理論
    • 1.1 タスクを扱うツール
    • 1.2 タスクからDOへ
  • Part 2 DOの全体像をクリアにする「ALL」
    • 2.1 ALLの構造を探る(1)
    • 2.2 ALLの構造を探る(2)
  • Part 3 今日をクリアにする「DAYS」
    • 3.1 DAYSの構造を探る(1)
    • 3.2 変化する優先順位を扱う
    • 3.3 行動するためのブレイクダウン
    • 3.4 DAYSの構造を探る(2)
    • 3.5 DAYSの構造を探る(3)
  • Part 4 アウトライナーフリーク的タスク管理論・追記
    • 4.1 レビューについて
    • 4.2 目標について
  • Part 5 アウトライナーフリーク的「重要なこと」
    • 5.1 「重要なこと」と優先順位
    • 5.2 「重要なこと」を決める
    • 5.3 空虚な言葉、リアルな言葉
  • Part 6 「重要なこと」をクリアにする「BE」と「AS」
    • 6.1 リアルな言葉(1) フリーライティング「人生で重要だと思っていること」
    • 6.2 リアルな言葉(2) フリーライティング「人生で重要なことに関係する風景」
    • 6.3 リアルな言葉(3) フリーライティング「欲しいもの、手に入れたいもの」
    • 6.4 リアルな言葉(4) 流れていく思考を巻き取る
    • 6.5 BEとASの構造
    • 6.6 優先順位、再び
  • Part 7 「DOのアウトライン」から「ライフのアウトライン」へ
  • CLEAR(2018)
    • CLEAR(2018)の構造
    • DAYS
    • ALL
    • BE
    • AS

はじめに

本書は、2015年にAmazon Kindle限定の電子書籍として出版された『アウトライン・プロセッシング入門』の応用編です。もちろん、同書をベースに技術評論社より出版された『アウトライナー実践入門』の応用編でもあります。



『アウトライン・プロセッシング入門』は、個人がアウトライナーを使って「文章を書き、考える」ことについての本でした。


個人が「文章を書き、考える」こと。その範囲は、ちょっと考えるよりずっと幅広いものです。物書きや研究者や企画担当者でなくても、私たちは日々の生活の中でいつも「文章を書き、考えて」います。買い物リスト、メール、日記、ブログやSNSへの投稿、電話メモ。それらはすべて、広い意味での「文章を書き、考えること」です。


その意味で、アウトライナーは「文章を書き、考える」ためのツールであると同時に、日々をサポートしてくれる生活ツールでもあります。



アウトライナーの生活ツールとしての側面を直接的に形にしたのが、『アウトライン・プロセッシング入門』の中で「生活のアウトライン」、『アウトライナー実践入門』では「ライフ・アウトライン」と呼んでいたアウトラインです。この「生活のアウトライン/ライフ・アウトライン」が本書のテーマです。


「生活のアウトライン/ライフ・アウトライン」は、アウトライナーをタスク管理ツールとして使うことから出発しました。


私にはタスク管理に対する強い苦手意識があります。昔からタスク管理を切実に必要とし、数多くのアプリや手法を試しながら、使いこなせたことがなかったのです。


アウトライナーフリークである私にとっては、タスク管理にアウトライナーを使うことは自然なことでした。


タスクをアウトライン・プロセッシングしながら学んだことは、タスクを扱うためには「タスク」を扱うだけではすまないということです。そしてタスクを扱うことは、まさに「文章を書き、考える」ことだということです。


だから、本書はタスク管理の話から始まっていますが、やはりアウトライナーの、そしてアウトライン・プロセッシングの本なのです。



ふたたび、アウトライナーの深遠な世界へようこそ。

1.1 タスクを扱うツール

「予定」以外のこと

 今から思うと信じられないことですが、私が大学を卒業して社会人になった頃、個人が仕事やスケジュールを管理する道具は事実上「手帳」しかありませんでした。もちろん、紙の手帳です。

新米社会人の私にとって、降りかかってくる膨大な(と、感じられた)仕事を手帳ひとつで管理することは神業のように思えました。それができる人のことを「仕事ができる人」というのだとすら思っていました。

手帳を開き、今日の日付のところに「やるべきこと」を書きこむ。そのために準備することも書く。先輩や上司からの指示があればそれも書く。そのうち状況が変わって「やるべきこと」を修正する。手帳はすぐに書き込みでいっぱいになり、収拾がつかなくなりました。

当たり前です。手帳には「予定」を書くことしか想定されていないのです。しかし「予定」以外のことはどこに書けばいいのでしょうか。

能率手帳にメモタイプのポストイットを組み合わせてみたり、大学ノートと併用してみたり、分厚いシステム手帳を買い込んでみたりしたものの、混乱した状況は最後まで変わりませんでした。当時の「電子手帳」など論外でした。

私が切実に必要としていたのは、予定や締め切りを忘れないように書いておくだけでなく、降りかかってくる無数の「やるべきこと」や、それについて「考えたこと」「覚えておくべきこと」を整理することでした。でも、上司や先輩たちを見回しても、そんなことをしている人は見あたりませんでした。

四苦八苦しながらいつも頭にあったのは、アウトライナーのことでした。

アウトライナーとの出会い

アウトライナーの起源には諸説ありますが、現在あるようなアウトライナーとして最初のものは、1983年にリビング・ビデオテキスト社から発売されたThinkTankです。

ThinkTankは、アウトラインの表示・折りたたみ・組み替えという、3つの基本機能をすべて備えていました。一見シンプルなその機能が、文章を書くだけでなく「考える」こと全般に応用できることがわかってくると、ThinkTankは物書き、法律家、研究者、プランナーといった職種の人々から大きな支持を得るようになります。80年代後半には、リビング・ビデオテキスト社自身によるものも含め、数多くのアウトライナーが登場することになりました。

私は大学生のとき、ふとしたきっかけからアウトライナーに興味を持ち、アウトライン機能を持っていた富士通のワープロ専用機OASYS 30SXを購入しました。日本でも少しずつアウトライナーが注目されはじめ、MacやNEC PC-9801上で日本語が使えるアウトライナーもいくつか登場し始めていた頃でした。OASYSがアウトライン機能を搭載したのも、そうした流れがあってのことだったと思います(注2)。

OASYSのアウトライン機能は今から思えば実用的とは言い難いものでしたが、アウトライナーの機能をそれなりに体験することはできました。大学のレポートや翻訳コンクールの応募原稿などをこのOASYSで書きました。

大学を卒業して就職した頃には、私はアウトライナーの持つ可能性に魅せられていたといっても過言ではありませんでした。思考が拡散するばかりで収束させることが苦手な自分のような人間を助けてくれる道具だという感覚がありました。

だからこそ、降りかかってくる仕事のコントロールに四苦八苦していた新入社員の私の頭には、いつもアウトライナーがあったのです。

タスクとアウトライナー

 文章を書く道具として誕生したアウトライナーでしたが、そのもっとも一般的な用途のひとつは今も昔もタスクリストの作成です。

アウトライナーがそうした用途に適していることは、すでにアウトライナーの魅力に取りつかれていた私には容易に理解できました。次々に降りかかってくる「やるべきこと」をアウトライナーに乗せて「考える」ことは、とても自然なことに思えました。それができれば抱えている問題の多くは解決する気もしました。

しかし残念ながら、当時の職場にはアウトライナーどころか社員が自由に使えるPCさえありませんでした。

そこで自宅のOASYSを使って、今でいうタスク管理のためのアウトラインを作りました。「カレンダー(日付ごとのタスク)」、「仕事(案件ごとのタスク)」、「プランニング(目標ごとに必要なタスク)」などの要素があったと記憶しています。参考にしたのは、当時の仕事術の本やシステム手帳のリフィルなど。それらの要素と考え方をアウトラインに乗せたわけです。

アウトラインには、先輩の指示や気がついたことなど何でも書き込みました。アウトラインの折りたたみ・組み替え機能を使えば、全体の構造を俯瞰することも再構成することもできました。

大きなデスクトップ型のOASYSを持ち運ぶことはできなかったので(!)、アウトラインはA4の紙にプリントアウトして持ち歩きました。全文を展開したものと、見出しだけを表示させたものを1セットずつ。完了したタスクには赤ペンで線を引き、新しいタスクが入ってくればこれも赤ペンで加筆し、帰宅したらOASYSに打ち込んでまたプリントアウトしました。「アウトライナーを持ち歩けるといいなあ」とつぶやきながら。

この経験が、「タスクを扱うツール」についての私のイメージを決定づけたことは間違いありません。

タスク管理アプリ

 今では高機能なタスク管理アプリが数多く手に入ります。それぞれ個性がありますが、多くがGTDの影響を受け、さまざまな切り口(期限、重要度、プロジェクト、コンテキスト、ゴールなど)からタスクの管理と実行をサポートしてくれるという点で共通しています。しかもPCやMacで入力した内容をスマートフォンと同期して持ち歩くことも、その逆もできるのです。新入社員の頃を思えば夢のような環境です。

私自身も多くのタスク管理アプリを入手し、使ってきました。本当に良くできていて感心させられるものもありました。

それでも私は「タスクを扱うツール」としてのアウトライナーを手放すことができずにいます。どんなに便利なタスク管理アプリがあっても、しばらくするとアウトライナーに戻ってしまうのです。

専用のタスク管理アプリがあるのに、なぜアウトライナーから離れられないのだろう。本書はその疑問からスタートします。私がアウトライナーフリークだからというのが理由のひとつですが、それだけではありません。

おわりに

本書は、私自身の個人的ニーズから作り始めた「タスクを扱うアウトライン」が、「ライフをクリアにするアウトライン」へと変化していく過程の物語です。

『アウトライン・プロセッシング入門』が、(原型をとどめないほど〈シェイク〉したとはいえ)ブログ記事をベースにしていたのとは異なり、本書はほぼ完全な書き下ろしです(それは個人的な挑戦でした)。一部ブログに公開された部分もありますが、いずれも(その時点での)本書の原稿から切り出したものです。

本当は『アウトライン・プロセッシング入門』の出版から3か月後くらいには出すつもりでいたのですが、実際には3年を費やしてしまいました。

思いがけず商業出版の機会(『アウトライナー実践入門』)をいただいてそちらに注力したり、パーソナルな問題に見舞われたり、体調を崩したり、アウトライナーについて考えすぎて頭が飽和してしまったりしたこともありますが、いちばん大きな理由は「生活のアウトライン/ライフ・アウトライン」自体が日々変化する「生きたアウトライン」だったことです。同時に私自身の個人的ライフが変化し続けたことです。

本書を読むと、あたかも一直線にアウトラインが成長していったように見えるかもしれませんが、実際には数年かけてあちこち寄り道しながら育っていったアウトラインです。その過程を完璧に再現することは不可能ですが、それでも実際に行われたアウトライン・プロセッシングの様子を可能なかぎり再現するように努めました。「見本」ではないナマのアウトライン・プロセッシングの様子を見ていただきたかったからです。

本書は「アウトライナーによるタスク管理」の本でもなければ、「ライフ・アウトラインづくりの提案」の本でもなく、まぎれもなく「アウトライン・プロセッシングの本」です。

本書はブログWord Pieceを読んでくださっている方々、Twitter上でアウトライナーや文章やタスク管理やその他もろもろについてやり取りをさせていただいている方々、倉下忠憲さんをはじめとする『かーそる』執筆メンバー、「段差ラ部」こと「アウトライナー友の会」、『アウトライン・プロセッシング入門』および『アウトライナー実践入門』の読者の方々に向けて書かれています。みなさんの書くこと、考えること、そして「ライフ」についての考えと経験の深さを私は知っているからです。本書がみなさんのライフの何かと呼応すればうれしいです。

本書を読んでいただき、ありがとうございました。でも、私たちはまだアウトライン・プロセッシングの深遠な世界の入り口に立ったばかりです。

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