好ましい軽やか

隣の部屋の若いカップルは、この夏軽やかに引っ越していった。

暑い夏の午後、友だち数人が手伝いにきて数時間ばたばたしているなと思ううち、あっという間に部屋は空になっていた。その日のうちに管理会社がやってきてドアに暗証番号式のキーを取り付けていった。

四半世紀以上(!)も同じ部屋に住み続けているこちらからすると、その軽やかさがまぶしい。

それ以来、隣は空き部屋になっている。特に大きな物音を発するタイプの人たちではなかったが、それでも壁を通して不在感が伝わってくるのが不思議。

カップルが配達先の更新を忘れたらしく、二度ほど置き配の荷物が空き部屋の玄関前に置かれていた。そのたびに彼女の方が自転車で引き取りにやってきた。それほど遠くないところに引っ越したのだろう。

二度目のとき玄関前でたまたま顔を合わせたので「あ、こんちわー」みたいな挨拶を交わした。朝のゴミ出しのときに交わす挨拶と変わらない。

その後置き配は来ていないから、きっともう顔を合わせることはないだろう。