両隣の掃除機

休日になると、両隣から掃除機をかける音が聞こえる。

一方の隣はもう20年以上ひとりで住んでる男性。マンションの中ではうちの次に古い住人。たまに顔を合わせると(朝ごみを出すときか、夕方帰ってきたときが多い)、ちょっと会話したりもする。

名前は知らないし職業不詳だし年齢不詳だけど愛想はいい。顔は林修さんにちょっと似ている。20年のうち、何年かは女の人が出入りしている気配があったが、ここ数年そういうことはない。

一回家の前で立ち話をしているときちらっと見えた玄関の中は整頓され、掃除が行き届いている。いわゆる「男性のひとり暮らし」のイメージではない。几帳面。

でも、毎朝バタンと大きな音を立てて玄関を飛びだし、階段を駆け降り、駅に向かって走っていく。朝は得意ではないらしい。

その毎朝のルーティンはコロナ渦でも変らない。そういえば「飲食関係の仕事」とだけ以前ちらっと聞いたような気もする。

もう一方の隣は、最近引っ越してきた若いカップル。夫婦なのかどうかは知らない。

ある日外から帰ってきたら、若いカップルが自分たちで運転してきたバンから荷物を運びこんでいるところだった。引っ越し業者は使わず、何度も往復しては夜までごとごとと作業していた。

ごみ出しの日には決められた時間(8時)にきっちり合わせてごみを出す。玄関前の廊下まで掃除する。顔を合わせれば挨拶する。

その部屋のもともとの住人(若い男性)が、玄関前の廊下(つまりうちの前の廊下でもある)に回収日までごみを置きっぱなしにする、ビニール傘を何本も並べる、煙草の吸い殻を捨てる、夜中に人を呼んでどんちゃん騒ぎをする、挨拶しても無視する……というタイプの隣人だったので、単純にありがたい。

ふたりとも仕事はリモートらしく、通勤している様子はない。日中も出入りが多い。それぞれがひとりで出入りし、ときどきふたりで出入りする。ふたりで出るときは手をつないでいる。うちの前の交差点の点滅する歩行者用信号をふたりで走って渡る。そのスピードと軽やかさに、いろんなことを思う。

そんな両隣から、休日になると掃除機の音が聞こえる。そういう感じが、総合的にけっこう好きだ。