アウトライナーフリーク的ノートテイキング

昔から、アウトライナーは「ノートを取ること」にもっとも適した道具のひとつだと思っている。

ノートと言ってもいろいろあるけど、ここでは「人の話」、たとえば口頭中心の講義や講演のノートを取ることについて考えてみる(数式や図表がたくさん出てくる場合にはたぶん向かない)。

ワンアウトライン

WorkFlowyのような「ワンアウトライン」思想のアウトライナーなら、ノートの作り方は簡単だ。

たとえば講義ノートなら、「○○○○論 2018/02/14」というような項目を立てるだけだ。その下の階層にノートを書いていけばいい。

他のアウトライナー(DynalistやOmniOutlinerなど)でも、講義ごとにドキュメント(ファイル)を新しく作るのではなく、ひとつのアウトラインにその講義のノートすべてをまとめておくといい。

そうすれば、たとえば年間の講義全体をひとつの大きなアウトラインとして扱うことができる。

ポイントだけ書こうとしない

これは個人的な意見だけど、ノートを取るときに「重要なことだけ」「ポイントだけ」書こうとする必要はない、と思う。

仕事の打ち合わせのメモならたぶん「ポイントだけ」の方がいいけれど、講義や講演のように、「その内容自体がコンテンツ」の場合はちょっと違う。

そもそも、ある話が出てきた段階で、それが重要なのか重要でないのか、ポイントなのかポイントでないのか判別できるとは限らない。

そんなに重要じゃないと思ってスルーした話題が、後から重要だったとわかることもある。

親切な話し手であれば、ポイントを充分に強調してくれるかもしれない。でも、「重要なこと」や「ポイント」は、必ずしも話し手が「重要」だと意識していることばかりではない。話し手がそれほど「重要」だと思っていないことは、話し手がどれほど親切でも、おそらく強調されない。

さらに問題なのは、リニアな語りを聞きながら「重要なこと」と「重要じゃないこと」をその場で判別しようとすると、その行為自体に集中力とエネルギーを消費してしまうということだ(そして肝心の内容がおろそかになったりする)。

だからぼくは、「重要」とか「ポイント」とかはあまり深く考えず、話されたことを無心にがりがりと書き取っていくのが好きだ。

もちろんテープ起こしじゃないから、「えーとですね」とか「ま、そのー」まで一字一句書き取ることはない。そこら辺はコモンセンスで。

フラットにノートする

ノートを取る段階では、アウトラインを作ろうなんて思わずに、話された順番にひたすらフラットに書いていけばいい。

センテンスや段落の体裁を整える必要もない。どうせ、人の話なんてちゃんとした「文章」にはなっていないのだ。

ただし、キーワードの羅列にはしない。ざっくりでいいから「てにをは」のある文章にする。

これは、語りのフローをキャッチするためだ。フローの中にこそ重要な情報が含まれていることがある。キーワードの羅列だと、それを逃してしまう。

たとえば「実はフローの中に重要な情報がけっこう含まれてるんですよ」という言葉からキーワードだけ書き取ろうと思えば、多くの人は「フローに情報」とか「フロー←重要な情報」みたいな感じにすると思う。

でも、本当は語り手がいちばん強調したのは「実は」とか「けっこう」だったりする。微妙だけど重要な(可能性のある)ニュアンスの違いだ。

だから、元の話のニュアンスをなるべく活かしつつ、読点(、)くらいのタイミングで改行しながら打ち込んでいく。細かく改行するのに抵抗があるなら、句点(。)ごとでもいい(実際に句読点を入れなくても、そのくらいの呼吸で改行する)。

細かく改行するのは、後から操作しやすくするためだ。

ちなみに、音声入力データを使う場合

Googleの音声認識(を使った音声入力)の実用性が驚くほど高くなっているということで、もし音声入力データが使えるなら、ここまでのノート取りの作業はそれに替えてもいいかもしれない(こちらの記事が、関連情報も含めてまとまっていて参考になった)。

その場合は、音声入力したテキストデータをアウトラインにぺたっと貼りつければいいのだが、ベタ打ち状態のままだと扱いにくい上に重くなるので、エディタやワープロで事前に改行を入れておく。

語りのアウトライン

ここからが本番。

ノートを見直す段階で、はじめて「アウトライン」にする。

ノートを上から読みながら、内容のまとまりごとに見出しを立てる。

「構造化」を意識する必要はない。話の区切り(切れ目)に、機械的に見出しをつけていくくらいでいい。

ただし、見出しは細かめにつけるといい。見出しの下に内容が一行しかなくてもいい。

同じような見出しが何回も出てきても気にしない。それは、同じ話があちこちに出てきたということにすぎない。この段階では、内容を「まとめる」必要はない。

見出しをつけ終わったら、アウトラインを折りたたんで見出しだけを画面に残す。これで、今日の話し手の「語り」の流れを一望していることになる。

これを「語りのアウトライン」と呼ぶことにする。

構造のアウトライン

次に、「語りのアウトライン」を丸ごとコピーする。

「ワンアウトライン」方式の運用をしているなら、タイトルにあたる項目(上の例なら「○○○○論 2018/02/14」)をコピーするだけだ。

複製を作るのは、安心してぐちゃぐちゃに解体できるようにするためだ。

まず、コピーしたアウトラインの末尾に「不要」という項目を立てる。書き取ってはみたものの、明らかに不要と思われる内容は「不要」の下に移動する。

すぐに削除しないのは、アウトラインを編集している過程で、実は必要だったとわかることがあるからだ。

残った見出しを眺め、似た内容や、関連した内容をまとめる。あちこちに同じような見出しが散らばっていたら、このときに集めておく。大きなまとまりに見出しがつけられそうだったら、つける。

そして、自分が理解しやすいように、頭に入りやすいように意識しながら、アウトラインを組み替え、整理する。

このときは、もともとの「語り」を意識せず、内容だけに着目して大胆に組み替える。「語りのアウトライン」は別に取ってあるから、遠慮する必要はない。

たとえば、アウトラインがA、B、Cという3つの大きなまとまりに整理できたとする。

アウトラインを眺めながら、それぞれのまとまりがどう関連しているのか、どう機能しているのか考えてみる。

Aが前提知識で、Bが本題で、Cが内容と関係ない余談だったとしたら、それはもともとそういう構造の話だったということだ。

これを「構造のアウトライン」と呼ぶことにする。

語りを意識せず、自分の視点で「構造」を導き出すプロセス自体が、内容についての最高の「復習」になる*1

構造のアウトラインを深読みする

「構造のアウトライン」は、他にもさまざまなことを教えてくれる。

たとえば、もともとの「語りのアウトライン」と比較してみると、聞きやすい「語り」は、内容の「構造」通りには進んでいないことがよくわかるかもしれない。これは、自分自身が話をする機会があったときに、とても参考になる。

ときには「構造のアウトライン」の内容に疑問を感じることもあるかもしれない。内容に矛盾があるように思えたり、話し手の結論とは別の結論が言えるのではないかと思えたり。

「語り」の上では気づかなかったことが、「構造のアウトライン」を作ることで目に見えるようになったのだ。

もちろん、いちばん大きな可能性は、自分が何かを見落としている、あるいは聞き逃しているということだ。でも、ひょっとしたら実際に矛盾や論理の穴がある可能性だってある。

そんなことをいろいろ思いながら、あらためて調べたり再考したり質問したりする。

これが「勉強」にならないはずはない。

 

参考:旧Word Pieceの「アウトライナー」カテゴリの記事

*1:ただし、その「構造」はあくまでも自分の「解釈」にすぎないことを忘れないようにする。