Bike Outlinerをとても気に入っている

Bike Outliner(以下Bike)は近年でいちばん気に入ったアウトライナーかもしれない。

BikeはMacのネイティブアプリであり、当然Macでしか使えない。1年ぐらい前に数週間試用しとても良いと思いつつ常用に至らなかったのは、現代の環境でMacでしか使えないというのはさすがに厳しいと思ったから。

Macでしか使えないというのはもちろん今も変わっていないのだが、最近あらためて使ってみたところ、そんなことがどうでもよくなるくらいBikeが気に入ってしまった。

書いたことを指先でくるくる操作するうちに、考えの全体像が浮上してくるような感覚を、ひさしぶりに味わえたような気がした。昔初めてMacのアウトライナーを使ったときに味わった感覚だ。

アウトライナーについてあれだけ語っていながらこの感覚をしばらく忘れていたかも、とちょっと怖くなったりもした。

Bikeという名は、もちろんスティーブ・ジョブズの言葉「知的自転車」から来ている。Bikeのユーザーズガイドの冒頭には

私たちは自転車を約束されたはずなのに空母を手にすることになった。
(Jonathan Edwards)

という言葉が引用されている。Bikeは空母ではなく自転車だ、という宣言だ。

Bikeの魅力

Bikeの雰囲気は、以下のページの動画を見るだけで充分伝わってくると思う。

www.hogbaysoftware.com

具体的に気に入った点をいくつかあげてみよう。

絶妙なバランス

Bikeの大きな特徴は、厳密さとゆるさの絶妙なバランス。その代表は、アウトライナーのくせに階層構造の制約がゆるいところ。

たとえば第1階層の下に第3階層を作れるのだ。もちろん論理構造上は、第1階層の下に第3階層が作れたらおかしい。でもこれ、考えながら文章を書くときにはやりたいことが多々あるのだ。それをわかってくれている、というのがうれしい。

エディタでありアウトライナーでもある

アウトライン編集モードとテキスト編集モードが分かれている。これはデイブ・ワイナーのThinkTankに始まる初期のアウトライナーの流儀だ(OmniOutlinerなどに引き継がれている)。

テキスト編集モードでは、Bikeの使用感はほぼテキストエディタになる。インデントしなければ、シンプルなテキストエディタとして使えるくらい。

Bikeはテキストエディタとして自然に動作してくれる。行の途中で上の行にカーソルを動かしたとしたら、カーソルは同じ位置に自然に動いてくれる。「リスト」ではなく「文章」を扱うときには大切な機能だ(WorkFlowyだと、行の途中でカーソルを上下に動かしたときに、カーソルが行頭に飛んでしまう)。

一方Escキーをたたけば、カーソルが行カーソルに変わり、アウトライン編集モードに入る。このモードでは、折りたたみ・展開、入れ替えなどのアウトライン操作が自由自在にできる。矢印キーひとつで下位階層から親項目を折りたためるのもけっこう重要なポイント。

以前から、アウトライナーの機能は本来はカット・コピー・ペーストと同じくらい基本的なテキストエディタの一機能であるべきだと個人的に思っているのだが、Bikeはそれに近いものがある。

アウトライナーはテキストエディタであるべきなんですよ。

複数ウィンドウ

ひとつのファイルを複数のウィンドウで開ける。そして、両方独立して折りたたみ・展開ができる。これが地味にありがたい。

不思議なことに、これができるアウトライナーは少ない。せめてウィンドウ分割ができればいいのだが、OmniOutlinerなどはそれもできないから、大きなアウトラインで離れた箇所間で移動するときに苦労することがある。

WorkFlowyやDynalistはプラウザのウィンドウを複数開くことでそれができるというのが、実は大きなアドバンテージだった。

Wordはひとつのファイルを複数ウィンドウで開けるので、ページレイアウトの状態とアウトライン表示の状態で並べておくことができて嬉しいのだが、両ウィンドウともアウトラインモードの場合、一方のウィンドウで行った折りたたみ・展開操作がもう一方のウィンドウにも反映されてしまう。

大きなアウトラインに強い(らしい)

「らしい」というのは、ぼく自身が今のところ2万字くらいまでしか扱ったことがないからなのだが、Bikeはこの程度ではビクともしないし、スピードもまったく変わらない。

OmniOutlinerは(ぼくの使っているインテルプロセッサ時代のMBAだと特に)、このくらいでもけっこう速度が厳しくなってくる。

書式の扱い方

ぼくは基本的にはアウトライナーに書式は不要だと思っているのだが、それでも、ときどきちょっとだけ書式を変えたいことがある。

フルスペックのワープロみたいに書式を設定できる必要はない(むしろそんなことはできない方がいい)。階層ごとにスタイルシートを適用できたりする必要もない(Wordのようなプロダクト型アウトライナーならそれは必要だが、Bikeはそうではない)。

Bikeはフォントや書式をある程度指定することができる。この「ある程度」具合が実に気が利いている。詳しくはBikeの説明を読んでほしいけれど、書式に関してできることとできないこと、そしてできることの実現方法が絶妙なのだ。

新旧へのリスペクト

これは完全に好みの話なのだが、古くからのアウトライナー使いとして嬉しくなってしまうのは、Bike にアウトライナーの歴史に対するリスペクトを感じるところだ。使っていて思わず微笑んでしまうようなところがある。

上でも書いたとおり、アウトライン編集モードとテキスト編集モードの分け方などは初期のThinkTankやMOREの流儀だし、行頭に大きな丸いバレットではなくトライアングルを使っているあたりも、Macのアウトライナーで育った身としては嬉しい。

一方でWorkFlowy以降のモダンなアウトライナーの良いところもちゃんと取り入れている。低迷していたアウトライナーというジャンルを復活させた(とぼくは思っている)新しいアウトライナーたちへのリスペクトも感じる。最近追加されたナビゲーションバー(どこにフォーカスしているのか示すパンくずリスト)などはその典型だ。

空母ではなく自転車

紹介した以外にもBikeには気が利いた細かい特性がたくさんあるので、Macユーザーでアウトライナーに興味がある人はぜひ試用してみてほしい。

個人的な要望はまだまだあるけれど(巨大ファイルを高速で扱えるだけに検索機能をもう少し充実させてほしいとか)、今の時点でもBikeは「自転車」を名乗るのにふさわしいアウトライナーだと思う。

ということで、今はけっこう喜んでいるところ(そしてiPhoneと同期したい日々のアウトラインと使い分けなければならないことに悩んでいるところ)。