仕事(として行う行為)と欲望

人間は、欲望と完全に無関係なことを長く続けるようにはできていないのだと思う。

残念ながら多くの人にとっての「仕事」は「欲望と無関係なこと」に該当する。いや、仕事は金銭的報酬を得るためにするはずであり、金銭的報酬は欲望を満たすための大切な要素なのだが、ここで言うのは仕事として行う「行為」自体が欲望と結びついているかどうかという話。

金銭的報酬がどれだけ得られたとしても、欲望と完全に無関係な「行為」を続けることは辛い。

逆に言えば、どこをどうとっても面白くない作業(にまつわる行為)も、多少なりとも欲望と結びついていれば、苦痛を軽減することはできる。

「気に入った道具を使う」というのは、そのひとつだ。

「道具なんか何を使っても同じ」という人に言いたいのは、道具には、仕事(にまつわる行為)と欲望を結びつける大事な役割があるということだ。

前職での最後の数年間は、万年筆がずいぶん助けてくれた。普段使いの筆記具としてはべらぼうに高い(当社比)のだが、それだけの価値はあったと思う。見栄的な意味でではなく、純粋に実用的な意味で(自慢じゃないけど、高価な品を見せびらかしたいという欲求はまったくと言っていいほどない)。

もともとは筆圧が強すぎて腱鞘炎になってしまったことがきっかけなのだが、その万年筆で書く感触それ自体の気持ち良さが、仕事(にまつわる行為)のためのモチベーション維持につながっていることに、あるとき気づいた。

その一方で、職場であてがわれるPCやら社内システムやらによって削られたモチベーションも相当あるわけですよね。