倉下忠憲さんの新刊『ロギング仕事術』について

※この記事は9月14日に配信された「うちあわせCast 第134回:Tak.さんと『ロギング仕事術』について」のために作ったアウトラインを元にしています。同配信のために、著者には事前に献本していただいています。


9月14日発売の倉下忠憲さんの新刊『ロギング仕事術:課題に気づく、タスクが片づく、成果が上がる』を読みました。

倉下さんといえば、これまでタスク管理やノート術などノウハウの解説本、もしくはEvernoteやScrapboxなどツールの解説本を多く出されてきたのですが、今回はけっこうビジネスパーソンよりの「仕事術」の本です。

位置づけとしては、『すべてはノートからはじまる』のスピンオフ的な本だと感じました。同書で提案されたさまざまな「ノート」のあり方のひとつ、ということですね。実際、「ロギング仕事術」という言葉はすでに同書の中に出てきています。

以下が目次です。

第1章 記録とともに進めるロギング仕事術
第2章 ロギング仕事術の進め方
第3章 ログから思考を起動する
第4章 応用的ロギングパターン
第5章 シンプルなメソッドで「考える」を取り戻す
クイックガイド ロギング仕事術を進めていくための6つの指針

チートでもハックでもない、圧倒的に非常識なスゴいやり方でもない、正面からのストレートな仕事術本です。ツールや環境に依存せず、誰でもすぐ始められて、シンプルで挫折しにくく、どんな仕事にも適用できて、長く続ければその分成果が上がる。そんな「地に足のついた」仕事術、という印象を受けました。

それにしても、第5章がいかにも倉下さんらしい。

読んでいて気づくのは、多くの仕事術の本に出てくるであろう「効率化」とか「省力化」とか「生産性」といったワードが強調されていないことです(そもそも、それらが目的ではないと明示されています)。

一方で前面に出ているのが「考える」ことです。なんのための「ロギング仕事術」かといえば、「考える」を取り戻すことなのです。例の第5章のメッセージですね。

これはぼくの個人的な感覚ですが、今は「考えなくていい」という直接間接のメッセージがあらゆる場所に溢れていて、それが多くの人を不幸にしているような気がします。なので、仕事術の中での「考える」の復権は、とても共感するところです。

紹介される方法論自体は非常にシンプルなので、ここで内容を紹介することは避けますが、キモは「ロギング」という言葉です。「ログ log」ではなく「ロギング logging」。進行形なんですね。

新しい、革新的な手法を期待する向きには、単に「ログを取りましょう」と言われても「何を今さら」感があるかもしれません。

でも「ロギング仕事術」のコンセプトは「記録とともに仕事を続ける」こと。この「ともに」という部分、つまり進行形であることが重要だし、通常イメージする「ログ」、「記録」とはちょっと違うところです。

進行形のロギングがなぜいいのか。

まず、想像してみるとわかるのですが、後から記録するのは大変です。時間が経てば忘れるし、仕事を終えた後で(ひとつの仕事を終えた後にしても、一日の最後にしても)振り返って記録を書くというのは、けっこう気力を要します。

「記録とともに仕事を続ける」ことがいちばん楽なのです。

そしてもうひとつ。

本書で言うところの「ログ」は、「やったこと」の記録というだけでなく、「やろうとしていること」の記録──つまり一般的にタスクリストと呼ばれるもの──まで含みます。そのあたりも、いわゆる「記録」とか「ログ」のイメージとは異なるかもしれません。

ロギング仕事術によってどんないいことがあるのか……という話は本書を読んでほしいのですが、ひと言で言えば仕事と「ともに」書かれたログは、私たちの仕事、そして生活を「考える」ための素材になるのです。

一か所だけ引用しましょう。

 記録を残すことには、少しの手間がかかりますが、「考える」ためにはそれが必要なのです。

 効率のためではなく、考えるためにこそ記録を残すこと。

 もっと言えば、記録がなければ考えられなかったようなことが、考えられるようになること。

(強調は原文)

もちろん、「考える」ことによって自分と仕事との関係、ひいては仕事自体が変化してくるであろうことも、想像がつきますね。

「ロギング仕事術」には即効的な効果もちゃんとあります。ひとつあげるとすれば、脱線からの回復です。

現代の環境は脱線のタネに事欠きません。上司や同僚が割り込んでくる場合もあるし、ネットで調べものをしていたはずが面白い記事を見つけてそのまま脱線してしまうということもある。脱線を防ぐことは極めて困難です。

そしてもっと難しいのは脱線から本線に戻ること。

でも、もし自分が「何をしようと思った」のかログが残っていたら。これによって、仮に脱線したとしても、本線に戻りやすくなるわけです。

「そんな何もかもを記録していたら肝心の仕事をする時間がなくなるのでは」と思う人がいるかもしれませんが、だからこそ何を記録し、何を記録しないのかが大切になります。

本書では、そのあたりの塩梅はもちろん、ロギングをどのように始めるか、慣れてきてからの応用──などが順を追って解説されています。

特別なツールも環境も必要とせず、コストもかけず、気軽に始められる方法なので、これまでログ/記録に挫折してきた人も、試してみる価値はあるのではないでしょうか(ツール・環境を問わないのは事実ですが、常に手元に置いて使えるデジタルツールがあることがベストでしょう)。

ぼく自身も、本書の方法をさっそく一部取り入れさせてもらいました(もちろんアウトライナーを使います。具体的にはDO-DAYSのアウトラインの運用方法が一部変化しました)。

冒頭にも書いた通り、この記事は9月14日に配信された「うちあわせCast 第134回:Tak.さんと『ロギング仕事術』について」のために作ったアウトラインが元になっています。ここには書ききれなかった疑問点、自分と考え方が違うなと思った点なども含めて、1時間半じっくり語っていますので、興味のある方はぜひ。

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