すべて頭に入れること、ピースがはまること

ツールや手法によって自分をサポートすることを恥と考える人が一定数いる。そのことに気づいたときは、かなりの衝撃を受けた。

個人的にはツールや手法によって救われてきたという感覚が強いので非常に不思議に思うし、その感覚は理解できないのだが、とにかくそういう人がいる。

ツールや手法によって苦手を補ったり時間を有効に活用したり仕事の質を高めたりしたい人が、それを恥と考える人の下で仕事をすることになると、辛い思いをする。

かつて勤めていた会社の上司は、「仕事はすべて頭に入れる」がモットーだった。「頭がいいとは記憶力が優れていること」という観念が昔はあったらしく、こういう発言はよく聞かれた(「仕事は手帳一冊あれば充分」というバリエーションもある)。

上司が頭のいい人であったことは間違いないが、問題は複雑で変化の多い現代の環境の中で物事の複雑な相互依存関係まで含めてすべて「頭に入れる」ことなど不可能ということだった。

実際には上司の頭からはさまざまなものがこぼれ落ち、こぼれ落ちたあれこれは(ツールや手法によってサポートされた)部下によって掬われていた。

そして「そのくらい頭に入れられるようにならなきゃダメだよ」と上司は言う。

ちょっと複雑な文章をまとめようとしていて、アウトライナーにサポートされなければ到底無理と思えるようなそれを何ヶ月もいじり回しているうちに、ふとジグソーパズルのピースがはまるように(実際に音がするように)全体がまとまる。

そのときの、まるで最初からすべてが自明だったかのような感覚と「仕事はすべて頭に入れる」という言葉の関係について考える。