「目から鱗が落ちた」と簡単にいう。
でも、目の鱗はそんなに簡単には落ちない。
簡単に落ちた鱗は簡単に元に戻る。
そのとき「目に鱗が戻った」とは思わない。
落ちるときは意識できても、戻るときは意識できないのだ。
何かの拍子でもう一度鱗が落ちたとき、そのことに気づく。
そんなこと何回も何十回も繰り返しているうちに、気がつくと無くなっている鱗がある。
その頃にはもう「目から鱗が落ちた」とは思わない。
誰かが「目から鱗が落ちた」と言っているのを目にして「そんなに簡単には落ちないよ」と思うだけだ。
あるいは二度と落ちなくなる鱗もある。
落ちない鱗はもはや認識されることはない。
■
何回も何十回も繰り返し鱗が落ちるとき、どこかから先はたぶん偶然ではない。