目から鱗が落ちた

「目から鱗が落ちた」と簡単にいう。

でも、目の鱗はそんなに簡単には落ちない。

簡単に落ちた鱗は簡単に元に戻る。

そのとき「目に鱗が戻った」とは思わない。

落ちるときは意識できても、戻るときは意識できないのだ。

何かの拍子でもう一度鱗が落ちたとき、そのことに気づく。

そんなこと何回も何十回も繰り返しているうちに、気がつくと無くなっている鱗がある。

その頃にはもう「目から鱗が落ちた」とは思わない。

誰かが「目から鱗が落ちた」と言っているのを目にして「そんなに簡単には落ちないよ」と思うだけだ。

あるいは二度と落ちなくなる鱗もある。

落ちない鱗はもはや認識されることはない。

何回も何十回も繰り返し鱗が落ちるとき、どこかから先はたぶん偶然ではない。