恋人と機能とジャストアイデア

マッチングアプリは、(少なくとも最初の段階では)容姿とスペックでしか相手を選べない。

容姿とスペックで相手を選べば、マッチングした後は必然的に減点主義にならざるを得ない。容姿とスペック以外のイニシャルな情報が何もないのだから。

職場や学校での出会いなら、相手を恋愛対象として意識する前に、容姿とスペック以外のデータが自然に蓄積されていくことになる。

そのために、容姿とスペックでは基準に満たない相手との恋愛が発生することがあり得る。プロセスの中で加点される可能性があるわけだ。

もちろんプロセスの中で減点されて、容姿とスペックだけで判断すれば立てたかもしれないスタートラインにすら至らないこともあるかもしれない。

ノートツールやタスク管理ツールなどと呼ばれるものは無数にあるが、多くの大同小異だ。でも時として「一見地味だけれど考え抜かれた機能」に出会うことがある。

思考と試行の繰り返しのプロセスの結果わかってきたことを煮詰めて形にしたような機能たち。

個人的に知っているものだと、たとえばWorkFlowyやBike OutlinerやThingsの機能にはそういうものを感じる。

超高機能というわけではないので、その良さを言葉で説明することはすごく難しい。でも使ってみると「ああ、考え抜いたんだな」ということがありありと伝わってくる。背後で重ねられたプロセスの重みを感じることができる。

込み入った議論の最中に、唐突にそれまでのプロセスを超越した「ジャストアイデア」を言い出す人がいる。「ジャストアイデアなんだけどさ、アレをコレしちゃうっていうのはどう?」みたいな感じ。

ジャストアイデアというのはつまり「思いつきに過ぎないんだけど」と言っているわけだから、本来それほど真剣に捉えなくてもいいはずなのだが、発言主が権力や決定権を持つ人だったりするとそういうわけにもいかない。

内心「それができりゃ苦労しねーんだよ」と思っても無視はできないし、無視しない以上議論の俎上に乗せざるを得ない。

そして「ジャストアイデア」を言い出すのはたいてい権力や決定権を持つ人だ。

結果的に、その「ジャストアイデア」を結論のどこかに組み込まざるを得なくなり、物ごとは無意味に複雑に、面倒になる。

同じような言い回しに「俺のハダカンなんだけどさ──」というのもある。

人は偉くなって判断と決定をする立場になると、この種のジャストアイデア的なものを連発してしまうことが多い。それは一般的には「現場を知らない」などと表現されたりする。現場とはプロセスのことだ。

繰り返し否定され、繰り返し再評価されたもの。時間とプロセスの中で濾過されたもの。その重みを表現することはとても難しい。たどってきたプロセスに当てはまる(一言で表現する)言葉がないからだ。

結果的に、安易に言葉として、数値として、ロジックとして表現されてしまったものに対抗できないことになる。

ところで、ごく稀にはジャストアイデアが(プロセスをすっ飛ばしているからこそ)本質を突いていることがある、というのもまたリアルライフ。