OmniOutlinerについてひさしぶりに語る

Dynalist

はじめてアウトライナーに触れる人にどのアウトライナーを勧めるか問題は、今のところDynalist一択になっている。

現代的なプラウザさえあればMacでもWindowsでもLinuxでも使える。iOSにもAndroidにもアプリがある。

端末間の同期は高速で競合することもほとんどない。

以前iOS版アプリで項目の並び順が勝手に変るという現象に悩まされたが、(自分の環境では)最近はそういうこともないようだ。

そして何よりも無料でアウトライナーとして必要な機能がほとんど使え、しかも項目数に制限がないので心ゆくまで試せる(項目数を節約しようという意識が働くとアウトライナーの良さを体感できずに終わってしまう可能性がある、と思う)。

OmniOutliner

その便利さでもスピードでもDynalistに後れを取っているように見えてしまうOmniOutlinerを、最近また多用するようになった。

OmniOutlinerは2016年頃まで長らくメインとして使っていたアウトライナーだ。『アウトライン・プロセッシング入門』のスクリーンショットもOmniOutlinerを使っている。

その後WorkFlowy、さらにDynalistへと移行していったが、OmniOutlinerはメジャーバージョンアップのたびに購入し続けてきたし、折に触れて使ってもいた。

OmniOutlinerがメインでなくなった理由はいろいろあるが、もちろんWorkFlowyやDynalistが良くできていたからというのが大きい。そもそもブラウザさえあれば使えるWorkFlowyが登場したからこそ、特定アプリに依存しない技法としてのアウトライン・プロセッシングを本に書けたのだ。OmniOutlinerがかつてほど軽快なアプリではなくなったということもある(今のMacではさほど気にならなくはなった)。

しかし最近思うところがあって(その話は長くなるので別の場所にゆずる)OmniOutlinerを意識して使っているうちに再確認したのは、OmniOutlinerの感触が好きだということだ。

「好み」と言ってしまえばそれまでだけど、意外に大きな意味があるような気もする。そこには懐かしいあの感触がある。80年代から90年代にかけてのMacを使っているときに感じたあの感触。それをうまく言葉にできるなら苦労しないのだが。

そしてふとOmniOutlinerの出自に興味を持った。

OmniOutlinerとConcurrence

開発元のThe Omni Group(以下Omni)は、もともとはNeXT向けの開発をしていた企業だ(WEBブラウザのOmniWebなどが有名)。旧Mac向けの製品を開発していた実績はない。

NeXTはスティーブ・ジョブズが80年代にAppleを追われた後で興した会社。革新的なワークステーションとそのOSを作っていたが(売れなかった)、後に次世代OSを必要としていたAppleに買収され、ジョブズもAppleに戻ってきた。NeXTのOSだったNEXTSTEP(正確にはそのフレームワーク部分を取り出したOPENSTEP)が後のMac OS X、そして現在のMacOS、iOSなどの基盤になる。

NeXTの消滅とともにOmniもMac向けアプリの開発に転じた。OmniOutlinerは(NeXT時代からのOmniWEBを除けば)その最初の製品だったと思う。

OmniのCEOケン・ケイス(Ken Case)氏がインタビューで語るところによれば、最初に触れたアウトライナーはEmacsのoutline modeだったという*1。初期のMac向けアウトライナーに触れていたわけではないというのが個人的には意外だった。

やがてNeXTに出会ったケイス氏が触れたのがConcurrenceというNeXT用のプレゼンテーションソフトだった(日本ではLightShowという名前で販売された)。

Concurrenceは本格的なアウトライナーの機能を持っていた。ケイス氏自身はプレゼンの機会はほとんどなくスライドを作る必要もなかったが、考えを整理するためにConcurrenceのアウトライン機能を愛用していたという。

しかしNeXTはAppleに買収され、Concurrenceを作っていたLighthouse Design社もなくなってしまった(Sun Microsystemsに買収された)。ConcurrenceはMacには移植されなかった。

ケイス氏によれば、Concurrenceに代わるアウトライナーが欲しくて作ったのがOmniOutlinerなのだという。

ケイス氏のインタビューは以下の動画より。

www.youtube.com

面影

Concurrenceの画面はこのページで見ることができる。左下にアウトライン画面が見える。確かにOmniOutlinerの面影がある(いや逆だ、OmniOutlinerにConcurrenceの面影があるのだ)。ノートの処理の仕方などはデイブ・ワイナーのMOREに近いようにも思える。

ちなみにConcurrenceはKeynoteが開発される以前にジョブズがスライド作りに愛用していたことでも知られる(ただしジョブズはアウトライナーは好きではなかったらしい)。

感触

ひさしぶりに真剣に使ってみたOmniOutlinerは「あのツールが使いたくて何か書く」という感覚を思い出させてくれた。気持ちよくて書く予定ではなかったことを書いてしまう感じ。上で書いた言葉にできない感触の正体は、たぶんそれだ。それは個人的にとてもうれしいことだ。そういうツールに出会うと、その出自を知りたくなる。

この記事はOmniOutlinerが他のアウトライナーより優れているのでぜひ使うべきだという主張ではない。ずっと書いてきたアウトライン・プロセッシングの技術は、特定のアウトライナーに依存するものではない。何よりも「感触」は人によって違う。

WorkFlowyはプロセス型アウトライナーの思想を見事に体現しているし、Dynalistのオールラウンドな機能と費用も含めた導入ハードルの低さもすばらしい。個人的にもDynalistは使い続けている。なにしろ便利だから。そして冒頭に書いた通り、今の段階で多くの人に勧めて間違いないと思うのはやはりDynalistだ。

でもそれはそれとして、OmniOutlinerの「グループ化」機能には麻薬的な快感がある。

*1:outline modeは今のorg modeの原形になったモードだと思う。Emacsをシンプルなアウトライナーとして使えるモード。